前回は、製造業の事業承継M&Aを継続するための資金基盤を取り上げました。ただし、資金を用意できても、承継後の経営を動かす仕組みがなければ、会社の成長にはつながりません。今回は、その実行力を**「M&A実行基盤」「経営管理基盤」「モノづくり基盤」**の3つから考えます。
M&Aと承継後の経営に関わるなかで明確になったのは、譲渡契約の成立は終点ではなく、再成長の入口だということです。誰が経営を担い、現場をどう変え、次の技術や市場へどこまで投資するのか。承継先を選ぶときは、この実行力まで見極める必要があります。
製造業の事業承継M&Aとは? 何を引き継ぐのか
事業承継M&Aとは、M&Aを活用して第三者の企業などへ株式や事業を引き継ぎ、経営を継続する方法です。
中小企業庁が公表した「2025年版中小企業白書」の事業承継に関する分析では、中小企業経営者の60歳以上が過半数を占め、後継者不在率は低下傾向にあるものの、引き続き事業承継への対応が重要な課題となっていることが示されています。
「2025年版中小企業白書」の事業承継に関する分析
製造業で引き継ぐのは、株式や設備だけではありません。熟練者の技能、品質保証の仕組み、顧客ごとの仕様、金型、仕入先や取引先との関係、地域の雇用など、決算書だけでは捉えにくい経営資源も承継の対象です。
だからこそ、承継先を選ぶ際に重視したいのは、譲渡価格や契約条件だけではありません。
「承継後に誰が経営し、何を守り、何を変え、どこへ投資するのか」まで確認することが重要です。
セレンディップ公式サイトで紹介している三井屋工業の事業承継事例でも、旧オーナーは、単に株式を譲渡するのではなく、三井屋工業を今後どのような会社に成長させていくのかを考えてくれる相手かという点を重視していました。
三井屋工業の事業承継事例を見る
承継後の成長を支える「3つの基盤」
承継後の成長に必要な力を整理すると、「M&A実行基盤」「経営管理基盤」「モノづくり基盤」の3つに分けて考えることができます。
セレンディップでは、これら3つの基盤による独自の「モノづくり事業承継プラットフォーム」を構築し、事業承継型M&Aの実行だけでなく、経営改革や現場改善まで一気通貫で取り組んでいます。
3つの基盤は、それぞれ独立した仕組みではありません。承継の目的と投資方針を定め、経営を安定させ、現場の改善を次の成長投資へつなげる一連の仕組みです。
セレンディップのモノづくり事業承継プラットフォーム。M&A実行基盤、経営管理基盤、モノづくり基盤の3つを循環させる仕組み。
参考:製造業の事業承継M&A|セレンディップ・ホールディングス
3つの基盤で、オーナーが見るべきポイント
3-1.M&A実行基盤:「買えるか」より「なぜ承継するか」
価格と同じくらい重要なのが、「なぜこの会社を承継するのか」です。
M&A実行基盤は、M&Aチャネルの開拓から、M&A戦略・実行までのプロセスを担う基盤です。セレンディップでは、承継後のR&Dや設備投資なども考慮して企業価値を評価し、M&Aを継続的に実行しています。
オーナーにとっては、買収資金を用意できるかだけでなく、自社をどのような成長構想に位置づけ、承継後にどこへ投資するのかまで確認することが重要です。
3-2.経営管理基盤:誰が、どのように経営するのか
承継は、社長を交代すれば終わりではありません。
経営管理基盤では、経験豊富なプロ経営者によるチーム経営と、バックオフィス業務の生産性向上を通じて、M&A後の成長体制を構築します。セレンディップでは、PMIの仕組みも活用しながら、承継後の経営基盤を整えています。
誰が何を決め、従業員や取引先へどう説明し、どのように経営を進めるのか。承継先を選ぶ際には、こうした体制まで確認したいところです。
3-3.モノづくり基盤:現場改善を次の成長につなげる
現場改善は、コスト削減だけで終わらせないことが重要です。
モノづくり基盤では、「見える化の推進」「現場のスタンダード化」「省人化」の3ステップで製造現場の変革を進め、生産性と品質の向上を目指します。さらに、そこで得られたリソースをR&Dへ振り向けることで、企業競争力の向上につなげます。
改善によって生まれた資金や人材を、次の製品や市場へ振り向けられるかが、承継後の成長を左右します。
M&A、PMI、企業価値向上を循環させる
M&A実行 → PMI(M&A後の経営統合)→ 企業価値向上 → 次のM&A・成長投資
3つの基盤は、M&A、経営改善、現場改革を一体で進める仕組みです。M&A後に経営を整え、現場改善やR&Dで企業価値を高め、その成果を次の成長投資へつなげます。
承継先を選ぶ際は、「M&Aを実行できるか」だけでなく、誰が経営を担い、承継後にどこまで投資・改善を続けられるのかを確認することが重要です。
承継先を比較するときに確認したい5つの質問
承継先候補との面談では、次の5つを確認すると、価格だけでは見えない違いが分かります。
- 自社をどの成長構想に位置づけ、どのくらいの期間、保有・経営するのか。
- 承継後の設備、人材、R&Dへの投資余力はあるか。
- 現経営者の退任後、誰がどのような体制で経営するのか。
- 何を残し、何を変え、従業員や取引先へどう説明するのか。
- 現場改善で生まれた資金や人材を、研究開発や新市場へどうつなげるのか。
この5つの質問は、候補先との面談や仲介会社との打ち合わせ、社内検討のチェックリストとして活用できます。回答の内容だけでなく、どこまで具体的な計画を持っているかを見ることで、承継後まで考えている相手かを判断しやすくなります。
製造業の事業承継M&Aに関するよくある質問
Q1.製造業の事業承継M&Aとは何ですか?
製造業の事業承継M&Aとは、後継者不在などの課題を抱える製造業が、M&Aによって第三者へ株式や事業を引き継ぎ、事業を継続する方法です。製造業では、株式や設備だけでなく、技能、品質管理、顧客との関係、金型、取引先、雇用などの経営資源も含めて承継を考える必要があります。
Q2.事業承継M&Aでは、承継先の何を確認することが重要ですか?
譲渡価格や買収資金だけでなく、誰が経営を担うのか、設備・人材・R&Dへ継続して投資できるか、製造現場をどのように改善していくのかまで確認することが重要です。
Q3.セレンディップの「3つの基盤」とは何ですか?
「M&A実行基盤」「経営管理基盤」「モノづくり基盤」の3つです。M&Aの実行から承継後の経営管理、製造現場の改善までを一体で進め、企業の持続的な成長につなげるための仕組みです。
事業承継について考え始めたオーナーの方へ
まだ譲渡を決めていない段階でも、後継者問題や今後の選択肢を整理しておくことには意味があります。セレンディップでは、事業承継の方法だけでなく、承継後の経営体制や資金計画、設備投資、人材、製造現場の改善まで含めて検討しています。

著者
北村 隆史/セレンディップ・ホールディングス株式会社 取締役CFO
事業会社での経理・経営企画、経営コンサルティングを経てセレンディップに入社。グループ会社CFOとしてM&A後の経営に携わり、現在は取締役CFOとしてグループ経営を推進している。詳しいプロフィールはこちら