本社ではできなかった“理想の工場”をゼロから設計
三井屋工業が東北工場を建設した背景には、2つの大きな課題がありました。
一つは、本社工場での改善の限界です。
量産を止めずに設備やシステムを刷新することは簡単ではありません。日々の生産を続けながら改善を重ねることはできても、工場全体のレイアウト、動線、設備配置、データの取り方までを抜本的に再設計するには限界がありました。
もう一つは、東北エリアでの需要拡大への対応です。
自動車に求められる軽量化や静粛性へのニーズが高まるなか、三井屋工業の製品が活躍する領域も広がっていきました。顧客の生産拠点により近い場所で、迅速かつ柔軟に供給できる体制を整える必要性が高まっていたのです。
米沢を選んだ理由は、人材確保だけではありません。
東北・関東エリアの取引先に対応しやすい地理的な位置にあり、物流面でも合理性があること。さらに、山形県や米沢市の企業誘致への熱意、地域としてものづくり企業を受け入れる土壌も、東北工場の立地を後押ししました。
つまり東北工場は、単なる生産能力の増強ではありません。
本社で培ってきた改善の知見をもとに、「これからの中堅製造業に必要な工場とは何か」をゼロから問い直した、僕らの“理想の工場”だったのです。
つまり東北工場は、単なる生産能力の増強ではありません。
本社で培ってきた改善の知見をもとに、「これからの中堅製造業に必要な工場とは何か」をゼロから問い直した、僕らの“理想の工場”だったのです。
徹底した省人化と環境配慮──“人に優しい工場”の実現
この工場が革新的である理由は、単なるデジタル化にとどまりません。
根底にあるのは、「人に優しい設計思想」です。
従来の製造現場では、暑さ、重いものの搬送、紙の日報、熟練者の勘に頼る判断など、働く人に負荷がかかる場面が多くありました。
東北工場では、こうした負荷を一つずつ減らすことを、工場づくりの初期段階から考えました。
たとえば、工場内の暑さ対策。
天井を高く設計し、熱気を上に逃がす構造にすることで、作業環境の快適性を高めました。ヒーターなどの設備も効率性を重視し、エネルギー使用量を抑えながら生産できる仕組みを整えています。
その結果、製品1個あたりの電力使用量は従来比で大きく改善し、CO₂排出量の削減にもつながりました。さらに、使用電力の実質再エネ化にも取り組み、環境負荷の少ない生産体制へと進化しています。
こうした取り組みは、2025年6月の「山形県環境保全推進賞・知事賞」受賞にもつながりました。
地元の皆さまのご理解とご支援をいただきながら、米沢の地から全国へ、持続可能な生産のあり方を発信できたことは、三井屋工業にとって大きな意味を持っています。
AGVとHiConnexで“現場の属人化”を打破
フューチャーファクトリーを支えているのは、設備だけではありません。
現場で何が起きているのかを、誰もが同じ事実として見られる仕組みです。
その中心にあるのが、製造現場DX支援ツール「HiConnex」です。
ペーパーレスな電子日報、センサーと連動した工程モニタリングにより、作業時間のばらつきや不良要因、設備の状態を見える化。従来は勘と経験に頼っていた判断を、リアルタイムのファクトベースへと変えていきました。
「なぜ止まったのか」
「どこにムダがあるのか」
「どの工程に負荷がかかっているのか」
こうした問いに、現場自身がデータを見ながら向き合えるようになる。
それは、ベテランだけに頼る工場から、若手も含めて全員が改善に参加できる工場への転換でもあります。
また、AGVによる省力化も進めています。
ラインとラインの間を走行し、端材や完成品を自動で搬送することで、作業者は重いものを持つ負担から解放されます。人が運ぶ、歩く、探すといった作業を減らすことで、本来注力すべき業務に集中できる環境をつくっています。
省人化とは、人を減らすことだけではありません。
人が無理をしなくても生産が回る状態をつくること。
それこそが、三井屋工業・東北工場が目指すフューチャーファクトリーの姿です。
“人が辞めない工場”はどう作られるのか?
東北工場が多くの注目を集めている理由は、最新設備があるからだけではありません。
そこには、働く人が「ここで働く意味」を感じられる現場づくりがあります。
業務の省力化と快適性による働きやすさ。
地域にいながら、先進的な設備を自分たちの手で運用できる誇り。
データを読み解き、現場を自ら改善していく手応え。
こうした一つひとつが、従業員のエンゲージメントを高め、職場の文化をつくっています。
さらに、現場にはちょっとした遊び心もあります。
AGVのカラーリングや、工場内の雰囲気づくりにも工夫を凝らし、働く人が前向きな気持ちで現場に向き合えるようにしています。
小さなことかもしれませんが、こうした積み重ねが「自分たちの工場」という愛着につながっていきます。
フューチャーファクトリーに必要なのは、最新技術だけではありません。
人が誇りを持てること。
自分たちで工場をよくしている実感があること。
そして、この場所で働くことが、地域の未来にもつながっていると感じられることです。
データドリブンで生まれる、“新しい現場リーダー像”
この工場で育つ人材には、従来の現場リーダーとは少し違う力が求められます。
経験や勘だけで判断するのではなく、まず事実を見る。
データをもとに状況を把握し、原因を考え、改善につなげる。
こうした所作が日常の中で身についていきます。
その結果、経験年数だけではなく、「見える情報をどう扱えるか」が現場を動かす力になります。
若手であっても、データを見て考え、周囲を巻き込み、改善を進めることができる。
それは、三井屋工業全体の現場リーダーの質を底上げすることにもつながっています。
フューチャーファクトリーとは、設備が進化するだけの場所ではありません。
人の判断の質が変わる場所です。
現場の人材が、データを使いこなし、自律的に改善を進められるようになる場所です。
「できることから始める」スマートファクトリー化のリアル
三井屋工業・東北工場の取り組みは、いわゆる“大企業の派手なDX”とは一線を画します。
すべては、現場目線から始まっています。
まずは事実を知る。
人の負荷を下げる。
やれる範囲から、確実に定着させる。
そして、改善の成果を次の取り組みにつなげる。
センサーで工程の状態を把握する。
電子日報で作業のばらつきを見える化する。
異常が起きたらすぐに気づけるようにする。
搬送のように負荷の大きい作業から自動化する。
このように、小さな改善を積み上げることで、現場と経営をつなぐスマートファクトリーが形になっていきました。
大切なのは、最初から完璧な工場をつくることではありません。
現場が使いこなせる仕組みにすること。
改善が続く状態をつくること。
人が置き去りにならないDXにすることです。
未来に向けた、次なるチャレンジ
今後の注力領域は、GXとさらなる自動化です。
省人化をさらに進め、少ない人数でも安定して生産できる仕組みをつくること。
設備停止をできる限り減らし、予兆をつかんで先回りできる体制を整えること。
材料のばらつきや工程内の変化を吸収し、不良を限りなく減らしていくこと。
こうした挑戦は、次世代のフューチャーファクトリーに欠かせないテーマです。
工場が止まりにくい。
人が無理をしない。
エネルギーを無駄にしない。
地域の中で、持続的に成長できる。
そんな未来を実装する挑戦が、すでに米沢の地で始まっています。
「ここで働く意味がある」──それは、未来をともにつくる誇り
地方創生、スマートファクトリー、GX、DX。
どれも一見すると、少し遠い言葉に聞こえるかもしれません。
けれど、三井屋工業・東北工場では、それらが一つずつ“現場のリアル”として形になっています。
派手な演出ではなく、小さな改善の積み重ねから、確かな変化を起こしてきました。
この挑戦が教えてくれるのは、未来を変える主役は、東京や大企業だけではないということです。
ここ山形にも、未来のものづくりをつくる現場があります。
米沢市に工場を構えてから、三井屋工業は単に工場を“つくる”のではなく、人を育て、地域とともに成長する“場”を耕してきました。
「暑くない工場」
「重いものを持たない仕組み」
「若手でも挑戦できる文化」
「データを見ながら、自分たちで改善できる現場」
働く環境を少しでもよくしたい。
その一つひとつの想いが、今では多くの人に「ここで働く意味がある」と感じてもらえる場所につながっています。
自分の手で最先端の設備を動かし、データを読み解き、現場を改善する。
その日々の中に、自分が未来をつくっているという実感がある。
そして何より、地元で働くことで、地元の未来に貢献できる。
そんな想いが、三井屋工業・東北工場には流れています。
僕らの“フューチャーファクトリー”は、完成形ではありません。
これからも現場の声を聞き、データを見つめ、地域とともに育てていくものです。
山形だからこそ、できた挑戦。
米沢の地から、日本のものづくりの灯を、未来へつないでいきます。
