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2021.05.20 実施事例

ものづくり事業承継の実例「②事業承継の準備」 ~面談を通じ、自らの思いをさらに具体化し、事業承継先を決断する~

シニアフェローによる事業承継相談
連載コラム 第二回 事業承継の準備

ものづくり事業承継研究所の清水です。

ものづくり事業承継研究所所長 清水

ものづくり事業承継研究所所長 清水

「ものづくり事業承継の実例」として、2018年10月に、セレンディップグループに参画しました三井屋工業株式会社(以下、三井屋)をひとつの事例として、①事業承継のきっかけ、②事業承継の準備、③事業承継の実行、④事業承継後、⑤事業承継のまとめの5回に分けて、ブログを掲載しており、今回は、「②事業承継の準備」となります。

特に、このシリーズでは、ものづくり事業承継研究所のシニアフェローでもある元オーナーからの視点に着目して記載していきますので、これから事業承継の検討を進めるオーナー経営者の方々のご参考になれば幸いです。

承継のきっかけ(前回までのまとめ)
1947年に創業した三井屋は、自動車内外装品製造の事業を行い、トヨタ自動車様はじめ自動車関連企業と取引を行っております。創業者の甥に当たる5代目社長であった野口明夫様には娘が二人いらっしゃいましたが、50歳を過ぎた頃から「三井屋をどういう会社に成長させていくのかを考えてくれる事業承継先に三井屋の事業を任せたい」という思いを抱き、自ら事業承継に向けて動きだされました。

第2回目は、「事業承継の準備」。
野口様は、第三者への事業承継を行うことを決断した上で、「三井屋を安心して任せることの出来る事業承継先はどのような会社なのか」という思いを抱きながら、具体的な行動を開始しました。

M&Aの知識を吸収
~面談を重ね、事業承継の現場を理解する~

セミナー写真

セミナー写真

野口様は、金融機関からの紹介等により、まず、複数の投資ファンドの方と面談されました。投資ファンドの方との面談を通じて、「三井屋の価値を単に高めること以上に、今後、三井屋をどういう会社に成長させていくのかを考えて頂けるのか?」という点では、正直な感想として、なんとなくしっくりこなかったとのことです。
ただし、自ら動きだし面談を重ねたことで、M&Aに関する知識の乏しかった野口様にとっては、結果として良い勉強の機会となったということでした。

事業承継先の更なる探索
~ディスカッションを通じ、自らの思いを具体化していく~

さらに、野口様は、様々な機会を捉えて、事業承継先の探索を続けられました。
その中で、野口様の中で、事業承継先を2社に絞り込んだそうです。
1社はとても熱心にコンタクトを取ってこられた投資ファンドA社、もう1社はセレンディップ・ホールディングス(以下、セレンディップHD)です。
投資ファンドA社は、野口様のご存じの同業企業を買収されたご経験があり、自動車部品メーカーの立ち位置を良く理解していました。しかし、その投資ファンドと提携すれば、三井屋を買収したのち数年で、価値は高まるものの、また別の投資ファンド、もしくは事業会社に売ることとなり、長期安定取引を前提とした取引先との関係が大切なこの業界にあって、体制が短期間でころころ変わっては、取引先や従業員に不安を与え、事業としてうまくいかないだろうという思いを持たれたとのことです。

セレンディップHD会長の髙村

セレンディップHD会長の髙村

一方、取引銀行の関連で、セレンディップHDの髙村会長と話す機会があり、「この人と仕事をしたら面白いかもしれない、魅力的な方だ」と感じ、数カ月後、ご縁が切れないうちにとセレンディップHDに足を運び、三井屋の説明とともに、野口様の抱えている課題や思いを共有したとのことです。その際、セレンディップグループのビジネスモデルが、「中小企業の事業継承としての受け皿を担い、新しい経営管理を推進できるプロ経営者を派遣する。長期にわたって企業を成長させるため、セレンディップグループの傘下に入った企業をグループとして統括し、協同することで、様々なシナジーを生み出していく」――このセレンディップグループの姿勢は、野口様の望んでいたものに合致したとのことです。その後、定期的に意見交換する機会をいただく中で、野口様の気持ちは、次第に、セレンディップHDに傾いていきました。

野口様が考える三井屋の未来 / 事業承継先への期待

野口様は以下のように考えておられました。
買収するなら、5年後、10年後をにらんだスキームをつくってほしい……三井屋だけでなく、業界全体を見据えた再編、部品メーカーの合併・統合を含めた展望を示してほしい
現在、ガソリンから電気への移行を含め、自動車業界は100年に一度といわれる大変革期にあります。三井屋が今後も成長し続けていくためには、技術開発や設備投資に今までとは違う角度から、さらに高いレベルで対応しなければなりません。そうすることで、半世紀以上にわたって三井屋を育ててくださったトヨタ自動車様やトヨタ紡織様への恩返しにもつながると思っています。しかしながら、今までの延長線では今後の資金調達や人材確保や人材育成に限界があり、大変厳しいと思います。私自身、社長としての能力にも限界があります。第三者に託すのならば、業界全体の先行きを見通したうえで、三井屋が大きく発展できる絵を描ける相手がいい。そしてそれは、他でもない父の見据えていたビジョンでした。

事業承継先の決定 ~決断の基準を持つ~

そして、2017年12月、野口様は、もう一社の投資ファンドの線は捨てて、セレンディップHDとの具体的な資本提携に向かってスタートすることにされました。
決め手となった理由について、野口様は以下の4点を挙げております。
一つ目は、後継者不足や成長が伸び悩んでいる会社の経営を引き継ぎ、大きく成長させている実績が多数あること。
二つ目に、一般的な投資ファンドとは異なり、長期安定保有を前提に、経営の近代化を実践していること。
三つ目が、セレンディップHDは、株式上場に向けて準備中であり、将来、上場会社のグループの一員として、三井屋も大きく成長することが期待できること。
四つ目が、セレンディップHDの経営者である高村会長や竹内社長への期待。二人が三井屋に対して高く評価しており、一緒になって三井屋を成長させたいという、熱意を感じたこと。また、今後も、トヨタ自動車様にお役にたつ会社であり続けたいという、三井屋の軸足にも、深い理解を示してくれたこと。(野口様としては、この四つ目が最重要であったとのこと)

セレンディップHDへのグループイン時の写真

さらに、野口様は次のようにおっしゃっています。
今は、100年に一度の大変革期でありますから、何が起こるかわかりません。しかし、どんな時でも、この先、どう形を変えても、お二人ならば、三井屋が三井屋であり続けるための判断基準を、しっかり持って進めていただけると信頼することができた。

「事業承継の準備」のまとめ
~事業承継の目的や優先順位をしっかり持つ~

事業承継の準備」のプロセスという点では、仲介者やFAだけに頼らず、事業承継先を自らの足で探索されたことが、結果として、経験を蓄積し自ら納得する形での事業承継の意思決定が出来たのではないでしょうか。
今回、野口様から「決め手となった理由」を4つ挙げて頂きましたが、オーナー様の中には、事業承継プロセスの中で、当初の事業承継の目的から外れ、事業承継先との交渉が決裂してしまったようなケースを聞くことがあります。そうならないためにも、オーナー様にとっての目的や優先順位をしっかり定めて、事業承継プロセスを進めていくことが重要だと、改めて感じました。

 

次回、本シリーズの連載は、「ものづくり事業承継の実例:③事業承継の実行」をテーマに記載させて頂く予定となっておりますので、引き続き、よろしくお願いします。

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