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2022.11.24 実施事例

ものづくり事業承継の実例「④事業承継後」~円滑な経営の承継に向けて~

シニアフェローによる事業承継相談
連載コラム 第四回 事業承継後

ものづくり事業承継研究所の清水です。

「ものづくり事業承継の実例」として、2018年10月に、セレンディップグループに参画しました三井屋工業株式会社(以下、三井屋)をひとつの事例として、①事業承継のきっかけ、②事業承継の準備、③事業承継の実行、④事業承継後、⑤事業承継のまとめの5回に分けて、ブログを掲載しており、今回は、「④事業承継後」となります。

特に、このシリーズでは、ものづくり事業承継研究所のシニアフェローでもある元オーナーからの視点に着目して記載していきますので、これから事業承継の検討を進めるオーナー経営者の方々のご参考になれば幸いです。

前回までのまとめ

1947年に創業した三井屋は、自動車内外装品製造の事業を行い、トヨタ自動車様はじめ自動車関連企業と取引を行っております。50歳を過ぎた頃から「三井屋をどういう会社に成長させていくのかを考えてくれる事業承継先に三井屋の事業を任せたい」という思いを抱き、自ら事業承継に向けて動き出し、将来を託せる企業として、セレンディップHDとの具体的な資本提携を決断しました。そして、円滑な承継を実現するため、まず、取引先様、次に株主様、そして従業員への説明を一つ一つ丁寧に実行していきました。

セレンディップグループへ参画
~株式譲渡後も社長として後継者への引継ぎを行う~

2018年10月に、セレンディップグループに参画することになりました。セレンディップHDから2名が常勤役員として加わりましたが、野口様は円滑な事業承継を進めるために、引き続き、社長として経営を担いつつ、次世代の育成・引継ぎを行うこととなりました。このことは、株式譲渡後も取引先様との関係を継続し、サプライチェーンの一翼を担うという姿勢をご理解頂き、一定の安心感を与えることが出来たとのことでした。

一方で、野口様をはじめとするプロパーの役員・従業員とセレンディップHDからの常勤役員は協力して、新たな成長軌道に乗せるための100日プランを立案し、一つ一つ実行していきました。組織活性化策としては、従業員のやる気を増す活動や、コミュニケーションを深める施策、業務改善による徹底したスリム化など、従来よりも速いスピードで進めました。
この時の様子を野口様は次のように話しています。

「何よりもうれしいのは従業員のキャリアデザインを考え、丁寧に一人一人と接してくれている事です。日々、よい方向へ変化をしているのを感じます。株式譲渡の半年前、足元の業績は大変厳しいものがありましたが、体質改善のスピードが、はるかにアップし、それが業績にも如実に表れてきました。また、社長として、今までやりたかったことややりきれなかったことも、新体制でどんどん進みました。」

 また、100日プランの遂行に合わせて、セレンディップグループのビジネスモデルである、グループ他社との連携、シナジー効果の発揮も兆しが見えてきました。例えば、三井屋のIT担当者が、セレンディップHDに出向し、グループ全体のIT推進業務に関わることになるとともに、グループ各社の人事担当が集まってグループ全体の人事について話し合う機会も設けられました。さらに、グループ会社である技術者専門の派遣会社サンテクト(現:セレンディップ・テクノロジーズ)からの派遣も受け入れました。

山形県米沢市への新工場進出

2020年2月には、東日本の生産拠点とし、山形県米沢市に新工場建設を発表しました。東北工場建設は、東北・関東エリアに生産拠点を置く顧客に迅速かつ柔軟に対応するために、長年検討してきた案件でした。野口様は、高橋副社長と梅下専務とともに、山形県庁を訪問し、吉村美栄子山形県知事、さらには、中川勝米沢市長に進出を報告するとともに、複数の新聞社からの取材を受けました。そして、ロボットやIOTなどの技術を活用したスマートファクトリー化を図った東北工場(山形県米沢市)の2021年5月に竣工することが出来ました。

野口様は、本件は、三井屋の将来に関わるプロジェクトであり、次世代を担うメンバーに責任をもって推進してほしいという意味合いを込め、高橋副社長を筆頭に新体制のもとで本プロジェクトを推進させました。また、野口様は、本プロジェクトを通じて、今後も、様々な分野でグループ会社が連携・協同することで、規模の経済性を発揮し、一社だけでは限界のあったところを超えて成長していけるのではないかという期待がさらに高まったとのことでした。

▲三井屋東北工場の外観
関連記事:プレスリリース「三井屋工業 山形県米沢市に新工場竣工」

後継社長へのバトンタッチ ~満を持した経営の承継~

2020年6月、野口様は高橋副社長に社長職をバトンタッチすることになりました。高橋新社長は、1991年に三井屋入社以来、野口様から期待をかけ経験を積ませるために海外出張に同行させるなどをしてきており、株式譲渡後も副社長としてさらに経験を積んできました。この社長交代に関しては、取引先様からは、外部からではなく生え抜きの社長が選ばれたことは安心感があるといった評価を頂いたとのことです。

野口様としては安心して社長を任せることが出来たということでしたが、交代に際して、高橋新社長に対して、「これからも業界として大きな変化がある中で、①自動車業界としてどのように経営していくのか、②セレンディップグループの一員としてどのように経営していくのかという2つの視点を大切に三井屋の経営のかじ取りをしてほしい。」と伝えたとのことです。

事業承継の経験を活かして ~元オーナー野口様の思い~

野口様は、社長交代と同時に、相談役に就任し、合わせて、ものづくり事業承継研究所のシニアフェローとして、後進の育成に重点を置くこととなりました。現在、経営者の方から様々な相談を受けるようになったとのことです。

野口様は、次のように述べられています。

「驚いたことに、皆さん、単なる後継者不足で悩んでおられるわけではありません。後継者が、親族や社内にいたとしても、これまでの延長線上に、会社の将来の発展はあるだろうかと、真剣に考えた末、事業承継を第三者に託すべきではないかと考えておられるのです。それは、まさに私が、一番悩み考えていたこと。会社を成長させるために現状を打破しなければならないと危機感を持っておられる経営者の方々が少なくないということは、未来への希望でもあると思います。世界経済も大きく変化し、人々のライフスタイルも劇的な変化を迎える中で、どう生き残りをかけていくかを、我々中小企業の経営者は考えなければいけません。会社の歴史や創業者の志に、いまいちど立ち返り、従業員とその家族の幸せを考えてご決断されると良いのではないでしょうか。結果、自社のみで対応できるならば、それに越したことはありません。難しいのならば、第三者に事業を託すのも大事な選択肢のひとつではないかと思います。」

また、インタビューの最後に、野口様から現在の心境を教えて頂きました。

「いま、正直に申し上げて私は、肩の荷が下りてすっきりした気分です。19歳で父を亡くして以来、片時も、三井屋の株についての懸念が頭から離れませんでした。簡単に事は進まない非上場株に関する問題から解放され、本当にホッとしています。」

▲野口様のご講演の様子
「広島銀行・広島市主催自動車関連企業 事業承継セミナー」2022年11月22日

「事業承継後」のまとめ 

事業承継における課題は様々ありますが、特に、ものづくり企業の事業承継を円滑に進めるためには、サプライチェーンの一翼としての責任を引き続き担うことを社内外にご理解頂くことが重要であることを改めて実感しました。本件は、「株式譲渡後も経営者として経営の引継ぎを行い、その後、生え抜きの人材に経営を引継ぐ。」という事例でしたが、株式譲渡のタイミングで経営者が交代する、あるいは、外部からの経験を有する経営者を招へいするという事例であっても、上記に記載したとおり、事業承継後も引き続き、社内外にご理解頂き、取引を継続する上での「安心感」を醸成することが重要であると感じました。

 

次回、本シリーズの連載は、「ものづくり事業承継の実例:⑤事業承継のまとめ」をテーマに記載させて頂く予定となっておりますので、引き続き、よろしくお願いします。

 

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